フッチーノ開発秘話

強い・軽い・冷めにくい。従来の焼き物の常識を越えたこのfuccinoフッチーノ≠ニいう軽量強化磁器が作られるまでには、実に多くの苦労がありました。そんなフッチーノの開発秘話を、ここに紹介させて下さい。

佐賀県窯業技術センターとの出会い

「こりゃいかんなぁ…。基礎だけでも勉強しないと」

渕野
▲渕野陶土

私の家は佐賀県で代々、陶石を仕入れて磁器用の土に加工する陶土業を営んでいます。 大学で経済を学んで、長男跡取りとして家業を継いでいましたが、仕事はこなせても磁器の理屈は何も知らないんですよ。磁器は何でできているか、組成は何なのか。だから取引先から質問やクレームが来た時、説明できないことが度々ありました。「こりゃいかんなぁ…。基礎だけでも勉強しないと」と思いまして、そこで佐賀県窯業技術センターに通い始めたのが平成7年、30歳を過ぎた頃でしたね。それからは色々な原料を混ぜて調合するという、基礎的な実験をずっとしていました。

配合土の時代が来るかも!?

佐賀県窯業技術センター
▲佐賀県窯業技術センター

有田焼の土は単一で陶土ができる天草の陶石が原料ですが、そうではなく配合土の時代が来るかも!?という父親の先見の明もあって、ボールミール(ドラムの中に原料を入れて粉砕する設備)をうちでは導入していました。この設備を使ってセンターの指導を受けながら様々な配合土を作ったことが、後に軽量強化磁器を発明するきっかけになりました。

よし、作るぞ!強くて軽い素材

「じゃあ、やってみましょうか!」

新聞記事
▲新聞記事

配合土を作るため原料商社さんと付き合っていくうちに、ある時軽くて強い≠ニいう素材があれば、例えば航空食器などにできれば、すぐにでも売れることがわかったのです。売れるっていう話が目の前にぶら下がってる。「じゃあ、やってみましょうか!」と好奇心で一杯でした。その時は出来るとか出来ないとか、何も考えてませんでしたね(笑)

「やらんかったら、始めなかったらゼロじゃないですか。」

佐賀県窯業技術センター内
▲佐賀県窯業技術センター内

師匠である技術センターの吉田さんに早速相談したところ、「いや〜無理、無理ですよ!」と言われてしまいました。科学的に考えたら、軽さと強度は相反するものという認識ですからね。そうか…と思いながらも、でもどうしても忘れられなくて私もしつこく聞きました。すると「ほんとうに簡単にはできんですよ。それでもやるならゴールはないかもしれん。いいんですか?」と念を押されました。それだけの覚悟があるのかと、吉田さん私を確かめたかったんですね。

「やらんかったら、始めなかったらゼロじゃないですか。その分の研究はマイナスにはならないはずだから、やりましょうよ!」「わかった。そのかわり、腹決めんと中途半端じゃできんよ!」これが長い2年間の始まりでした。それからはもう、朝から晩まで技術センターに通い詰めの毎日が続きました。

軽量強化への試行錯誤

ここがひとつの壁でしたね…

試行錯誤
▲試行錯誤

軽量化させるためにどうすればいいか、まずは2つの方法がありました。1つは有機物をいれて、1300℃で焼くことで中に気泡を作って軽くする。でも有機物は臭いが出るので却下です。2つめは中空になったバルーンという材料を、調合の時に入れる。ところが中空なので製造時水に浮いたり、熱を加えると膨張して破裂し、表面がボコボコになってしまう。

何度も試行錯誤を重ねましたが、最終的にこの方法では無理だとわかり、さてどうしよう困った!ここがひとつの壁でしたね…。

1000種類という膨大な試験をしましたね

磁器の原料
▲磁器の原料

吉田さんと色々話をするうちに、原料の配合よりも組成自体を変えよう、全部見直そうということになって、そこで磁器中のガラス相に着目したのです。また新たに素材の研究が始まり、そうしてようやく使える原料に出会いました。

それからは調合試験の日々です。1000種類という膨大な試験をしましたね。この数をこなすというのが私も吉田さんも、一番の苦労でした。そしてある時強度を計ったら、普通磁器の約1.5倍になっていたのです。調べてみると中にできた結晶が、内部圧縮応力をかけていたからでした。次に重さを量ると、素材で普通より約一割軽い。さらに窯出し時の変形が少ないという特性もあり、完成品では実に約三割の軽量化になりました。

磁器内の小さな無数の気泡
▲磁器内の小さな無数の気泡

電子顕微鏡で見たら、中に5ミクロン以下の小さな無数の気泡ができている。その気泡のおかげで熱伝導率が低く、保温性という思わぬ効果もついてきたのです。夜中3時から4時まで、仮眠をとりながらの作業という日々の中、こうしてやっと、軽量強化磁器が完成しました。さっそく平成13年に特許を出願して、19年に登録されました。

山忠との出会いと新連携

何としても製品化したい。

開発は終わったものの次は土の単価が高いということで、その先の製造を断られるという日々でした。こうなるともう反骨精神ですよ。何としても製品化したい。土代が高いというだけの理由で2年間の月日をつぶされたくない!強くて軽い、しかも冷めにくい磁器なんて他にはないのだから!

山忠社長 山本 幸三さん
▲山忠社長 山本 幸三さん

そこで販売まで含めた商社さんを巻き込んで、事業化をすればいいのではないかと。そうして出会ったのが山忠の社長、山本 幸三さんでした。「これは今までの素材と違うんだから、一緒に開発をして行こうという会社を捕まえた方がいい。それで先方の満足するものを作れば必ず勝てます!」力強い山本社長の言葉でした。

フッチーノの可能性を実感して下さい。

フッチーノ製品
▲フッチーノ製品

その後は生地、焼成など各専門業種の企業に呼び掛けて、新連携を組織しました。これまでの縦割り分業制ではなく、同じ土俵で情報を共有しながら軽量強化磁器を一緒に作りあげるのです。

こうして日本で1番目の強くて軽い焼き物、fuccinoフッチーノ≠ヘ世に出て行くことになりました。焼きごしの強さが自慢でもあるフッチーノは、より大きく薄く、そして特殊な形状のものも得意です。軽いから、一度に大量を移動させる業務用にも最適です。皆さんにも一度、直接手に取って頂きたい。そしてぜひ、フッチーノの可能性を実感して下さい。

(ライター 土井綾) 

フッチーノの開発秘話は、コチラ

関連サイト: 焼物WIKI - (株)山忠 - 有田焼の窯吉

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